【夏ヶ瀬 - 文集】

- 文学へ片想いしている -

解のない海

 私的な好意を舳先に結び、水底の月へ向け、釣り糸を垂れている。

 寄る辺ない笹の舟。解のない海に浮く。

 夜の、角度の浅いところでは、おとついの天気ガイド放送が、日付変更線を跨がずに、増幅や減衰をくり返し、いつまでも、いつまでもと、夜空に残っている。

 いまも放送は、昨日の空模様。上空は、昨日の語りにリソースを割いている。

 暗い沖で、波頭のように走っていく線は、音のしない稲光だ。遠く遠く、無音のまま何度も起こる。事は始まる前からあって、個人で終われない現象と、告げるかのように。

 心細く釣り糸を、水底の月へ向けて垂れている。寄る辺なきまま、笹の舟だ。沈んだ月を見下ろす、解のない海にぽつり、ぽつり。

 見ればぽつりと、銘銘各個に舟が浮かぶ。皆、私的な好意を舳先に結び、水底の月へ向け、静かに釣り糸を垂れている。