【夏ヶ瀬 - 文集】

- 文学へ片想いしている -

木製の月

 冬は内から(コツコツと)、周囲へ向けて鑿《のみ》を当て、木彫りの夜を、彫って広げた。
 ある日うっかり刃が当たり(一瞬の乾いた音)丸盆のような木製の月、真っ二つに割ってしまった。高らかに鳴り響いたその音は、幾多の星を吹き飛ばし、灯火の多々を打ち叩いて、夜光の一切を消し潰した。

 閉じた夜の中で、高らかだった音は次第に鳴りの形を崩し、残響となってさまよい始めた。

 いる、いない、も不確かになる。あとも、先もわからない所。時折り、残響が波形の線を光らせ、足首の高さに打ち寄せる。

 波形は、足元を過ぎる際、くるぶしの後ろで(ちろちろという)か細い音の渦を巻いた。

 また波形の線が寄せる。波は小さく渦を巻き、鈴を揺らすような音を立て、足首を握る。そこで勢いを失うと、またもとの後ろ姿に直って、暗い沖のほうへと返っていく。