【夏ヶ瀬 - 文集】

- 文学へ片想いしている -

夜の同じ町

 じっと目、見開いているうちに、月光色を帯びてきた、黒目その丸みある表層へ、きみの月探査船が着陸した。

 誰も彼もが、宵のうちにいた。宵の口から、何処とも隣接しない町が現れ、皆ぽつり取り残されている。伸ばした手指には、クリスマスのツリー飾りが下がって、肺からの呼吸に当たってぷらぷら、前後している。

 皆、夜の同じ町に取り残される、そんな仕組みがあった。空へは同じ言葉しか昇らず、みな今日見る分の夢を買おうとして、何度か同じ思い出を売り、今を凌いでいる。ああ、あの日、はじまりの日。きみの船長は、君自身だったろうか。

 黒目の中で、釣り合いを取っている。過去が地続きで、明くる日が変わらない。皆ひとりきり、夜の同じ町だ。君にきみの月探査船。ひとりずつ、夜の同じ町に。